結果を出すリーダーになる

スティーブン・R・コヴィー 

ロバート・A・ホイットマン/ブレック・イングランド

はじめに

本書はフランクリン・コヴィー社の創設者であり、今なお多くの人々に影響を与え続ける『7つの習慣 成功には原則があった!』の著者、スティーブン・R・コヴィー博士、現フランクリン・コヴィー社CEOとして世界中の組織や個人に「リーダー」としての英知とスキルを与えてきたロバート・A・ホイットマン、そしてフランクリン・コヴィー社の先鋭コンサルタントのブレック・イングランドの三名によって記されました。

現在、世界中の多くの組織が期待していた結果を出すことができず将来に対する不安を抱えている中、本書はそうした現状に対し組織が結果を出すプロセスの中でどのような課題を抱え、組織のリーダーやメンバーは今後どのように取り組むべきなのかを紹介するものです。


「予測不能な時代に、予測可能な結果を生み出す」とは?

本書の中で「過酷な状況」という言葉が幾度となく登場しますが、まさに現在の日本はその「過酷な状況」の真っ只中にいると言っても過言ではないでしょう。

企業の業績は一向に回復の兆しを見せていません。回復基調を描く企業も一部出てきてはいますが、その多くは過度なリストラや経費削減、給与カットなどの痛みを伴ったもので、決して健全な成長とは言えません。そしてその歪みは、社員のモチベーションやエンゲージメント、さらにはメンタルヘルス面にも大きな影響を与えており、将来への見通しが全く見えない状況にある企業も少なくありません。

本書は原題に「予測不能な時代に、予測可能な結果を生み出す」とあるように、明日のことですら正確に誰も予測できない時代において、予測可能な結果(自分が思い描いたビジョン)を手にするために、リーダーとしていかにビジネスに取り組むべきかを説いたものです。本書では、現在のアメリカ企業が抱える危険要因として、「実行力の欠如」「信頼の危機」「集中力の低下」「不安の蔓延」の4つを紹介していますが、これらの要因はアメリカだけではなく、今まさに日本が直面している問題であると言ってもいいでしょう。

実際の組織において、改革やイノベーションの必要性を叫ぶ人たちは多いものの、実際に真摯に課題に取り組み問題を解決し、結果を出す「実行力」に長けたリーダーは少数です。また、信頼関係は日本のビジネス社会においてはあたりまえのことであったにもかかわらず、部門同士、上司と部下、協力会社との関係においても、行き過ぎたリストラや経費削減によって、信頼どころか不信と懐疑心ばかりの組織となってしまった企業も少なくありません。さらに、このリストラや過度な経費削減によって、社員一人ひとりの仕事量は増え、仕事はさらに困難かつ複雑になり、一つのことに集中して取り組むことなどもはや不可能に近い状態なのではないでしょうか。

このような状況の中、多くの組織が、不安が不安を呼び、ますます自信と情熱を失うという悪循環に陥っています。組織の中に、「実行」「信頼」「集中」「不安解消」を取り戻すことは、経営者に限らず、あらゆるビジネス・パーソンが望むことです。

これらのことをすぐに手に入れるのは簡単ではありません。しかし今本当に重要なこととは何かを見定め、自ら信頼関係の構築に取り組み、資源と時間を集中して実行すればこの困難な時代で成功することができるのです。

「ツール・ド・フランス」に見る「規律ある実行力」

人類史上最も過酷な自転車レースと言われるツール・ド・フランス。自転車競技では空気抵抗の影響をできるだけ避けるために集団で走行します。この集団を「プロトン」と呼びます。それぞれのレース戦略の中で、先頭を走る者もいれば、空気抵抗を減らすべく他の選手の背後につける者もいますが、平地を走っている限り、プロトンが乱れることはほとんどありません。つまり平地においてはプロトンは予測可能なペースで進み続けるのです。

しかしその後、舞台が険しい山岳地帯へと移ると、天候は激変し、ひとかたまりになっていたプロトンに大きな変化をもたらします。意外かもしれませんが、アルプスでは七月でも氷雨やみぞれが降ることがあるのです。逆に南フランスのモン・ヴァントゥなど砂漠のような地帯では熱射が待ち受けています。標高数千メートルの高地になると、過酷な条件の中、体力を消耗して離脱する選手、大きく遅れをとるチームが現れ、コンパクトにまとまっていたプロトンは長く間延びするようになります。厳しい状況の中で多くのチームがペースを落とす中、強いチームはこうした極限状態の中で抜け出していくのです。

チームや会社や組織も、自転車レースにおける急な上り坂や急変する天候のように過酷な条件に直面する場面があるのではないでしょうか。目の前にそびえる障害で向こうが見通せなかったり、これまで体験したリスクなど比べものにならない、大きなリスクが目の前に立ちはだかって、状況が変化しても明るさが期待できそうになかったり。

そんな状況の中でペースを落とさず、逆に抜け出してゆくチーム、組織には必ず強力なリーダーが存在します。優れたリーダーは不確実で流動的な環境でも、確固たる原則を貫き通し、期待通りの結果を獲得します。

どうしてそんなことができるのでしょうか?

その話に入る前に、山岳地帯にさしかかると勢いが鈍り、脱落する選手が続出するのはなぜか、その理由を考えてみましょう。それは体力や能力が不足しているからではないのです。

ツール・ド・フランスは皆万全な体調で臨んでいます。そうでなければ参加することはできないはずです。

その秘密はチームワークにあります。個人競技のように見えますが、実は、ツール・ド・フランスはチームワークの勝負なのです。規律ある実行力を備えたチームが勝利を手にし、これに欠けるチームが敗者となるのです。勝つためにはメンバー同士が心から信頼し合い、それぞれの役割を確実に果たさなければなりません。集中力を維持し、あらゆるチャンスを積極的に活用して戦略を遂行していかなければなりません。それができないと、小さなミスが積もり積もって、取り返しの付かない状況になるのです。

この規律の有無が「山岳地帯」におけるすべての差を生み出します。そして、この「規律ある実行力」は、我々のフィールドであるビジネス社会でこそ必要なものではないかと私たちは考えました。

フランクリン・コヴィー社は、1,100の組織で17,000のチームに属する30万人余りの社員を対象にチーム規律の実態を調査してきました。また、そのうち5,000チームで働く人々を対象にインタビューを実施しました。そしてその結果を、多数の組織の財務、業務、顧客ロイヤリティ・データと結合しました。その結果、業績の優秀な組織とそうでない組織を分かつ真の要因が浮き彫りになりました。ツール・ド・フランスに例えるなら、前人未到の七年連続総合優勝を成し遂げたランス・アームストロング選手と脱落した選手たちの違いです。

「規律ある実行力を備えたチームが勝利を手にし、これに欠けるチームが敗者となる」

これこそが、全世界の何千という企業や組織の支援をしてきたわたしたちの経験から得た結論です。


予測不能な時代の4つの危険要因

予測不能な時代を生き抜こうとする企業は、ツール・ド・フランスの自転車チームと同様、4つの危険要因に直面します。

(1)実行力の欠如

(2)信頼の危機

(3)集中力の低下

(4)不安の蔓延実行力の欠如

(1)実行力の欠如

自社をとりまく厳しい状況やニーズの変化などについてじっくり検討し、それに対応できるであろう、戦略も持っていても、それだけでは得たい結果を得ることができません。重要なのは、実行する能力、意志がチームにあるかどうかなのです。組織の中にはそのことを理解し、実践しようとしている人間もいれば、それを怠り、将来的にも絶対に実行しそうにない人間もいます。さらに、その中間層も大勢います。フォーカスすべきはこの中間層なのです。彼らは方法さえわかれば、もっと貢献できるはずです。

(2)信頼の危機

信頼の水準はかつてないほど低下しています。利益を密かに貯め込む企業。経営陣と従業員間に横たわる大きな溝。信頼が失われつつある証券市場。我々のビジネスにおいて背信行為の蔓延を感じている人は少なくないはずです。落とし穴だらけの心細い道路では、人は思わずスピードを落とします。減速するのは、それなりの理由があるのです。

(3)集中力の低下

コストや人員の削減は混乱の拡大につながります。リストラによって一人ひとりの社員の仕事は一気に増えることになるため、社員は一度に複数の仕事をしようとする。だが、二つの仕事をする者は一つの仕事に専念する者に比べ、意識の集中力が半減し、どちらも中途半端になりかねないのです。

(4)不安の蔓延

景気後退は心理的不況を招きます。仕事や退職金、果ては家まで失うのでは、と人々は不安になります。それが積み重なり、人に重くのしかかるのです。不安感が強くなると、人は目の前の仕事に集中できなくなります。意識の集中と熱意が求められる重要な場面で、集中力を失ってしまうことは致命的です。

現在の混乱の中、これら4つの危険要因は1つずつではなく同時に発生します。そして、互いに増幅し合います。信頼の危機は不安を掻き立て、不安や心配は集中力を奪い、集中力の低下は戦略の実行を危うくします。現在のような予測不可能な時代においては、戦略実行に際して細心の注意を怠ることは到底許されることではないのです。

4つの原則を実践する

優秀な自転車選手のように「山岳地帯」を無事乗り切るには、こうした危険要因を事前に予期しなければなりません。危険を回避して勝利を手にしようと思ったら、以下の原則の実践が必須になります。

(1)完璧に最優先課題を実行する

(2)信頼がもたらすスピードを活用する

(3)時間と資源を集中する

(4)不安を和らげる

(1)完璧に最優先課題を実行する

「シンプルな目標と明確な測定基準を設定し、それを絶えず見直しながら、結果測定などフォローアップを強力に実施する」企業に成功の女神は微笑みます。目標がシンプルであればあるほど、個人個人の理解度は高まり、各メンバーの役割、行動に確実に落とし込まれ、そして実行されるのです。

(2)信頼がもたらすスピードを活用する

信頼関係が脆弱だと全てにおいてスピードが落ち、コストが増えます。混乱の時代に経済全体も、あなたのクライアントも、さらにはあなた自身の資金繰りも減速するのはそのためです。しかし、逆に信頼レベルが上昇すると、すべてがスピードアップし、コストが減少するのです。

(3)時間と資源を集中する

誰もがより少しの資源でより多くの事を達成しようとしていることは言うまでもありません。しかし本当に重要なのは「何を」より多くかということです。顧客が真に評価するものを増やし、そうでないものを減らすべきなのです。成功する企業は価値を最優先に考えます。ただ節約するだけではなく、簡略化して顧客の望まない複雑さを排除します。全員に複数の仕事を掛け持ちさせることはせず、顧客から本当に求められている仕事に集中させることが重要です。

(4)不安を和らげる

心理的不況の原因は、人は自分の身に起きる事柄をコントロールできないという意識にあります。成功する組織は、社員たちがそうした絶望感を打破し、自分にできる事柄に集中できるように手を差し伸べています。不安の多くは、方向性が不明確だったり、目的に説得力が不足していたりすることによって生じます。人は自分が信じられる任務を任されると、不安を生むエネルギーを成果の実現へと振り向けるようになります。

この世の中に唯一確かな事があるとすれば、それは「不確実性が存在する」ということです。優秀なチームは有能な自転車チームの選手と同様、どのような条件の下であれ、終始卓越したパフォーマンスを発揮します。あなたはひょっとしたら「今は特別だ」と思っているかもしれないが、良い時期も悪い時期も予測可能な結果を得るための方法を示すこと、それが本書がお伝えしたいことです。そのためには、先ほど述べた4つの原則を実践することが重要です。この原則はどのような状況においてもまったく変化しません。そして、あなたを絶対に失望させないでしょう。