米国オラクル・コーポレーションの日本法人として1985年に設立された日本オラクル株式会社は、データベース管理システムソフトの開発と販売からスタートし、現在はアプリケーションやミドルウェア等のソフトウェア製品、そしてサーバーやストレージ等のハードウェアまで、企業のITシステムを全面的にサポートする随一の企業です。
その日本オラクルのすべての製品に対して、お客さまへのサポート部門として、製品の活用や使いかた、また不具合やトラブル等も含めた、ハイレベルなお客さまの要求に対してひとつひとつ対応されているのが、カスタマーサービス部門です。
カスタマーサービス部門は製品によって本部が分かれており、主にアプリケーションに関するサポートを行なっているのが、カスタマーサービス統括アプリケーションサポート本部です。
カスタマーサービス統括アプリケーションサポート本部とは、文字通りお客さまが製品を導入したあとに、様々な問題・課題や要望に対し、的確なサポートを施す部門ですが、緊急かつ重要な問い合わせが毎日大量に押し寄せ、仕事は多忙を極めています。そうした日々の業務の中において、自部門の戦略を実行し、目標の実現を果たしていくことは、簡単なことではありません。
今回、カスタマーサービス統括アプリケーションサポート本部、生産管理サポート部の島田秀彦様と門脇巨人様に、日々多忙な業務の中で、自ら立案した重要な戦略をどうすれば組織として適確に実行できるのか、という点についてお話を伺いました。
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カスタマーサポートサービス統括 アプリケーションサポート本部 本部長 島田秀彦様 |
カスタマーサポートサービス統括 アプリケーションサポート本部 生産管理第1グループ シニアマネージャ 門脇巨人様 |
私たちはグローバルな組織の一員として次のようなビジョンを持っています。
また、これらのビジョンと合わせて、私たちがオブジェクティブと呼んでいる次のような目標がグローバルの部門から落ちてきます。
ひとつは、「プロアクティブ」というもので、私たちはカスタマーサポートという仕事なので、どうしても「リアクティブ」な行動になりがちです。そうではなくて、逆にお客さまが問い合わせしなくても済むようにしていこうというものです。予防保守とも言えるのですが、システムの改善やお客さまへ訪問した際に、トラブルが起きないような活用の仕方を提供したり、こちらから電話をかけたりします。まさに、「7つの習慣」でいう「第Ⅱ領域」の活動と言えるかもしれません。
次は「お客さまの成功に貢献すること」です。私たちがサポートすることで、お客さまのビジネスが成功しなければなりません。これはお客さまへのアンケートの結果で測定します。
次に「コラボレーション」です。これはお客さまが成功するために、自分だけではなく、皆で協力してやっていこうというものです。
次は、「個々人のスキルアップ」です。サービスクオリティを上げるために、上司と相談しながら製品知識はもちろんのこと、コミュニケーションやネゴシエーションなどのソフトスキルを身につけることを目標にしていきます。それから、「サービスエクセレント」と私たちは呼んでいますが、案件を長期化しない、バックログをためないといった点を注視しています。
職務の特性上トラブル対応が多く、ストレスがたまりがちな仕事でもあります。これまでもずっとお客さまの成功に協力するという思いでやってはいましたが、全員が完全に同じ思いで本当にできるかというと、難しい面も確かにありました。ポイントは、その点を皆が納得していけるかどうかだと思っています。自分自身が辛いと感じている状態で、お客さまを助けることは難しいことですから。
現場で感じることは、お客さまからの緊急な問い合わせは毎日のように来ますから、そればかりに対応していると、自分のスキルアップであったり、プロアクティブにお客さまの予防保守を提案したりする時間がどんどんなくなっていきます。これが本当に難しいことでした。
普通、実行というと、リアクティブ(受身的な)な行動と捉えられてしまうかもしれません。たとえば、戦略をたて、それに基づいた行動であったとしても、上司から指示されただけの行動は、どうしても受身になり、やらされ感を持たれてしまいます。さらにひどい場合は、1年経って評価の際に目標の存在に気づくといったことすら起きてしまいます。ですから、戦略自体が絵に書いた餅になってしまって、こちらから指示をしてもメンバーはその内容に対して腹に落ちていなかったり反発したりします。その状態で次年度の戦略を練ったところで、実態は全く変わっていきません。
私たちは、「自走」できる組織を目指しています。メンバー自ら考え行動できる組織です。そういう観点で考えると、「実行」というのは非常に重要で、現在はまだまだギャップがあります。そのギャップを埋めるために、Execution(実行)にフォーカスすることで、反発することもなく、自ら喜んでやる状態になり、「自走」できる組織になることができるのではないかと考えました。
(門)以前は、「やらされ感」と同時に、こちら側からの「やらせている感」も感じていました。「自走」という言葉にピンときたのは、こちら側から「やってください」と言って、それに対して「やりました」というのは、実行と言えば実行ですが、終わったあとに何か残るのか、自分がいなくなっても実行できるかと考えると、そこには何もありません。たとえば、何ヵ月かに1回は、こちらからお客さまに連絡を取ろうと決めても、言われたときはやっても言われなくなるとやらなくなる。自らやりたくてやっているわけでもなく、自ら行なっている実行ではない、ということだと思います。自走、つまり自分たちで考え、自分たちで加速していくというのが理想だと思いました。
大きな目標は、グローバル部門からオブジェクティブという形で落ちてきます、あとはローカルで最適な形に考えなさいということなのですが、そこを真摯に捉えて、どのように実行すればいいのかを工夫したのが門脇です。彼は、「この目標を実現するために、我々は何ができるかを一緒に考えてみましょう」とメンバーに持ちかけました。
(門)あえて何も考えずに、こういうものがきましたから一緒に考えましょうと問いかけました。私がある程度考え、案を話してしまうと、その時点で、「やらせてる感」になってしまうと感じたからです。あえて一緒に考えようとしました。最初のころは、「これはできません」といった反発に近い声がありましたが、話を続けていくと、自分たちが影響できないことよりも、影響できることは何だろうかという話をするようになり、そのうちに、「これならできる」と、メンバー自身が本気で取り組めるような案が出てくるようになってきました。
(門)私が思いつかなかったようなアイデアが出てきました。たとえば、お客さまから問い合わせがくるWebサイトがあります。サイトは外部向けと内部向けで画面が異なります。私は他の部門の仕事だと思っていたのですが、メンバーから、テストアカウントでログインして体験してみてお客さまの立場から見るのはどうかと、斬新な意見が出たり、逆に、私は電話をすべきだと考えていたのですが、メンバーから「1分、1秒を争っているお客さまなどへは、電話をしないほうが満足されるケースもある」と言われたりしました。新しい発見でした。
まず雰囲気が変わりました。門脇のグループメンバーのほうが、いきいきしています。目標に対する腹落ち感が変わると、普段の行動が変わるというのがよくわかりました。結果のサーベイを見ても、お客さまの満足度という結果がついてきました。
(門)最初から巻き込むことではないでしょうか。PDCAの「PLAN」から一緒に始めることだと思います。ありがちなのが、PLANだけをリーダーやマネジメントがやって、残りをメンバーがやるようになってしまうことです。そうすると「やらされ感」が出てきてしまいます。PLANでどう参加してもらうかがポイントです。目の前にある事実に対し、どのように感じどのように分析するかというディスカッションには相当時間を割きました。
現場で何を決定すればいいかは、上司や他のメンバーが普段からどう考えているかがわかれば、的確な意思決定は可能です。普段からディスカッションを重ねることで、上司や周りが何を考えているかを理解していれば、いちいち意見を聞きに行く必要はなくなります。
以前は判断を委ねられることが多かったですが、今では判断を求められることはなくなりました。現在は意思決定のスピードも上がり、クオリティも上がっており、まさに自走の組織に近づいてきたと感じています。
(門)違いは主に2つあります。ひとつは時間です。以前は一人ずつとのミーティングを行なっていて、一人30分以内にしても全員やると3時間近くかかってしまっていました。現在は全員分を30分でできています。
もうひとつはチームワークです。以前だといいアイデアやケースがあっても、私を経由していましたが、その場に全員いると、すぐに意見を集めることができ、意思決定することができます。そして、以前だったら報告という意識だったと思いますが、現在はアクションプラン、あるいは共有という意識に変化してきたと思います。さらに言えば、「これをやります」と発表した内容は、メンバー全員と約束する形になりますので、実行度も上がったと思います。メンバー自身も毎週、目標を確認できるので、Wigセッションを行うタイミングもいいと言っています。
工夫している点といえば、できるだけ多くの人を受身にしないように、ひとりひとりに先行指標を割り振っています。英語が得意な人には英語学習の先行指標を担当させたりして、各先行指標にリーダーを任命しています。そうすることでリーダーは準備をしてきますし、きちんとやってきます。それから、これはわかりやすい例ですが、ある先行指標が悪いメンバーがいたので、その人を担当にしたら、急に成績がよくなったこともあります。
表計算ソフトのプログラムが得意なメンバーがいて、いいスコアが出ると、「スマイル」マークが出るなどすぐに勝ち負けがわかるように作成しています。ビジュアル化にはこだわっています。またアカウンタビリティを高めるために、数値入力はリーダーが入力するのではなく、すべて一人ひとり自分で入れてもらうようにしています。
チームの雰囲気はよくなっていますが、遅行指標の達成がまだ十分ではないので、先行指標を見直すなど、目標が達成できるように、いろいろな工夫をしていきたいと思っています。
社 名 | 日本オラクル株式会社 |
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設 立 | 1985(昭和60)年10月15日 |
代表者 | 代表執行役 社長 最高経営責任者 遠藤隆雄 |
資本金 | 230億1百万円(2011年5月31日現在) |
従業員数 | 2,585名(2011年5月31日現在) |
事業内容 | 企業の事業活動の基盤となるソフトウェア・ハードウェアならびにそれらの利用を支援する各種サービスの提供。1999年2月5日に店頭市場へ株式公 開、2000年4 月28日に東証一部上場。 |